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なんて禍々しいんだ。パイヨミです。
最近は無性にゲームがしたい気分ですが、オープンワールドやFPSはどうも苦手。2DのRPGで、キャラも三~四頭身くらいのやつが好みですね。ゲームって感じで。
でも、近頃はあまり需要がないのか、好みの作品が発売されることってほとんどない。
結局、ロマサガを延々とループするわけで……。
さて。今回は伊藤潤二の『うずまき』について、個人的に印象の強かった場面をご紹介します。
呪われていると分かっていながら、黒渦町の人々はなぜ脱出できなかったのか。
その点も考察していきたいと思います。
なお、本編の内容をご紹介した記事はまた別でご用意していますので、そちらも合わせてご覧いただければ分かりやすいかと思います。
合わせて読みたい
▶『うずまき』アニメ化!漫画をネタバレ解説
それでは、どうぞ。
切なすぎる瞬間
うずまきの呪いにかかった黒渦町。
そこではあらゆるものが渦を巻き、渦に魅了され、渦に侵されていく。
本作は主人公や黒渦町に関わった者にとって最後まで救いのないお話となりましたが、私が特に「切ないなぁ……」と感じた瞬間を3つご紹介したいと思います。
1.満男との別れ
ヒトマイマイに姿が変容し、食糧求めた男たちに追われる身となった満男。
あと一歩のところで食べられてしまいそうでしたが、少し距離が空いたのを見計らって桐絵は海岸沿いの岸壁に満男を這わせ、その場から逃げるよう促します。
しかしながら、未だ人間としての理性が残っているのか姉から離れようとしない満男。
桐絵が彼に向かって「行かないとぶつわよ!」と声を荒げながら木の棒で叩くと、満男は岸壁を這ってその場からいなくなります。
弟の満男がヒトマイマイになってしまっただけでも十分に悲しい出来事でしたが、彼を逃がすためとはいえ、桐絵が厳しい言葉を発しなければならなかったことに泣けてきました。
「必ずむかえに来るからね」と言い残した桐絵の言葉も虚しく、それが叶うことはありません。その後の満男が一体どうなったのか。待っているのは、どのみち悲しい末路でしょうね。
2.長屋に取り込まれる千恵
町を取材に訪れてから、桐絵と行動を共にしてきたリポーターの丸山千恵さん。
桐絵と暮らし、”桐絵ちゃん”と呼ぶほどの仲になった彼女は一緒に町からの脱出を図りました。
結局上手くいかずにとんぼ返りとなりましたが、両親を探す桐絵を手伝い、増築して長屋が渦巻き状に広がった町内を同行します。
両親がトンボ池にいるという噂を聞きつけ、そちらを目指すところまでは一緒にいましたが、破損した家屋の隙間を通り抜ける際に千恵は増築に巻き込まれ、そのまま中に閉じ込められてしまいます。
彼女の腕を引きながら前を歩き進んでいた桐絵が振り向くと、そこには木の板で行く手を阻まれた千恵の姿が……。
3巻からの途中参加とはいえ、もはや家族の一員に等しい扱いだっただけに、あの瞬間は非常に寂しい気分にさせられました。
3.ヒトマイマイを食べる秀一
住んでいた長屋を追い出され、台風や蝶族のせいで崩壊した家屋の陰に隠らす桐絵たち。
ボランティアのため町にやってきたと話す数人の男と合流し、彼らと共にまだ空きのある長屋を探し求めて町内を徘徊していました。
しかしながら、次に見つけた長屋も人でいっぱい。食糧も底を尽き、食うに困っている時にちょうど蝶族が食べ残していったヒトマイマイを発見します。
「綺麗事を言ってる場合じゃない」と、ボランティアの連中がヒトマイマイを食べ始めるのを戸惑った様子で見つめる桐絵でしたが、ふと隣に視線をやると、屈みこんで肉に齧りついている秀一の姿がありました。
いつ死んでも構わないと言わんばかりに無機質な表情を浮かべつつ、それでも生にしがみつこうとする彼の姿には、どこか虚しさを覚えました。
この連想がすごい!
うずまきによる連想が素晴らしい本作。
ここでは個人的に「これはすごいな……」と感じた箇所を3つご紹介したいと思います。
1.傷跡
桐絵のクラスメイトで、綺麗な顔立ちをした黒谷あざみ。
彼女の額にある三日月型の傷が渦巻き模様になり、やがて身体を侵食していくお話ですが、普通はうずまき模様が全身に広がっていくような想像をしませんか?
それが本作では、渦巻きがドリルのように体にめり込んでいく。
この発想が実に素晴らしいと感じました。
本人の目玉が渦の中心へと吸い込まれていく演出は鳥肌もので、渦が周囲のものを飲み込んでしまうのも伊藤潤二らしい尖った手法と言えます。
身体を侵食したうずまきは留まることがなく、最後は自分の身体さえも消滅させてしまう。
うずまきを用いた恐ろしい現象という意味では、このお話はとても印象に残りました。
2.びっくり箱
これまた桐絵の同級生で、人を驚かせることが趣味の山口満。
桐絵に恋をするもアプローチの仕方を間違えて交通事故に遭い、車の前輪に巻き込まれるという無残な死に方をします。
山口の土葬を終え、自室に戻った桐絵はその夜に生前の彼から貰った”ピエロのびっくり箱”が喋りだすのを目撃。ピエロは彼の復活を告げます。
桐絵からその話を聞いた秀一は彼女と共に墓場を訪れ、遺体の確認のため棺を掘り返しますが、すでに復活を遂げた山口が棺の中から飛び出し、彼らは追いかけられる羽目に。
びょんびょんと飛び跳ねながら2人の後を追ってくる山口。すでに遺体の腐敗が始まっており、衝撃に耐えきれず身体は徐々に崩壊していく。
間一髪のところで地面に伏した彼の身体は動きが完全に停止。地面に落ちた衝撃で、体内から大きなバネが飛び出します。
交通事故に遭った際に車のサスペンションが体内に入り込んでいたのか、まさしく人間びっくり箱という発想には度肝を抜かれました。
3.ヒトマイマイ
”うずまき”→”カタツムリの甲羅”という発想は誰でも思いつきそうですが、だからといって本作におけるヒトマイマイになる過程の描き方は秀逸すぎました。
背中にできた渦巻き模様が徐々に隆起し、それが甲羅になるところや、全身がぬめぬめになって目から角が飛び出すシーンは本当に気味が悪いです。(誉め言葉)
ヒトマイマイになっても変わらず教室へやって来るところは、ちょっとウケました。
でも考えようによっては、たとえ姿がカタツムリに変容しても人間としての自我は残っているということなので、とてつもなく恐ろしい病ですね。
このヒトマイマイは物語の中で極めて重要な役割を担っており、例えば伝染病の一種に用いられたり、非常食扱いになったりと、ドラマチックな展開を広げるためにも優秀なパーツと言えます。
何より存在自体が非常にキャッチーで、『うずまき』といえばヒトマイマイと言っても良いほどにインパクトのある仕上がりだったと思います。
すべて呪いのせい
黒渦町からの脱出は不可能?
うずまきに呪われた黒渦町。最後はえらいことになりますが、脱出は本当に不可能だったのか?
個人的に思うのは、桐絵が町から脱出しようとするのが遅すぎたのではないかということ。
完全に意思を持って脱出を試みたのは、満男がヒトマイマイの兆候に侵された時点なんですよ。いくら何でも遅すぎでしょう。
では、いつの時点まで脱出が可能だったのか。
物語の冒頭で隣町の高校から帰ってきた秀一を桐絵が駅まで迎えに行きます。この時点では黒渦町から外への行き来は自由にできる状態。
うずまきによる異様な力が働いたのは、恐らくトンボ池が台風を吸収したことに起因します。
台風の影響を受けた町内は竜巻が発生しやすくなり、脱出をしようにも方向感覚を狂わされてトンネルは抜けられず、海上にはまるで意思を持つように大きな渦が発生します。
台風の被害に遭った時点で、町からの脱出は不可能なんです。
じゃあ、それより前なら脱出できたんだ!
そう思うかもしれませんが、それも物理的に可能だというだけで、どのみち住人はうずまきの呪いから逃れられなかったのではないかと私は考えます。
事件が起きても通常運転
前半のうちに秀一の両親、黒谷あざみ、和典君たちと順にうずまきの被害に遭いますが、ここまでのところ公に死亡が知れ渡ったのは恐らく秀一の両親のみ。
黒谷あざみは人知れず消滅し、和典君たちカップルの失踪を目撃したのは一部の人間だけです。
秀一の父は表向き階段から落ちて亡くなったことになっており、母は精神病を患って自殺。この時点で住人がうずまきの呪いに気づくはずもありません。
次に起こった「巻髪」は間違いなく異常事態ですが、現象が起きたのは2名のみで、1名は不自然な死を迎えたものの、桐絵は髪を切ったことで助かります。
「ヒトマイマイ」も謎の伝染病という稀にみる大事件のように思えますが、被害者は3名のみ。
この被害者の人数の少なさが、住人の心を動かさなかった原因の一つであるように思えます。
そう、結局は他人事なんですよ。
異様な事件が起ころうと、自分には関係がないと思ってしまえば人は平気でスルーできる。
ましてやその土地に家を購入していたり、職場や生活を送る場があったりすれば簡単には離れることはできません。
長年住みついた町を離れるには、それ相応の理由が必要となります。
続けて起こった「黒い灯台」は近づかなければいい話で、「蚊柱」「臍帯」という猟奇的な事件は病院内で秘密裏に行われています。
その次のお話は、もう「台風1号」なんですね。
他人事に目を背け、通常運転を心がける民衆の心理が、脱出という手段を奪っていたんです。
桐絵にしても、高校生という立場で家族を想う気持ちの強い彼女は、秀一と2人で町から逃げ出すという選択肢を持ちえなかったのでしょう。
異常事態を受け入れてしまう
とはいえ、伊藤潤二の世界の住人はやはり頭のネジが何本もぶっ飛んでいる。
執拗なストーキング行為、ヒトマイマイの飼育、臍の緒を入院患者に食わす医師など。
まともな神経では考えられないような行動を取る者が多いのも彼の作風と言えますが、本作に至ってはやはり、うずまきの呪いという点で納得させようという理屈がほとんどでした。
うずまきの影響により脱出できない状況下で、平然とそれを受け入れてしまう蝶族。食糧難に陥ったとはいえ、伝染性の可能性が高いヒトマイマイを食べる行為。長屋の中で押し合った末にぐるぐると絡まり合った人々。
このように後半は露骨にうずまきの呪いの影響を受けていますが、前半でもその傾向は確かに見られました。
例えば、永遠に離れたくないからと互いに身体を捩じって絡み合った和典くんたち、人の注目を集めたい一心で渦を巻いた髪を喜んで周囲に見せつける関野さん、トンボ池の土を使用して渦巻き模様の陶芸品を作る桐絵の父なども相当に頭がおかしいと感じますが、それらはすべて”うずまきによる呪い”ということで説明がつきます。
結論として、本作の中で最もヤバいと感じるのは、原因の存在しない怪奇現象とそれを疑問視できない呪いの力です。
原因がないため抗いようがなく、それが現実の延長線上だと思い込んでしまう心理が読み手の背筋をぞわぞわとさせる。
結局はすべて呪いのせい。それは何より恐ろしいことだと感じました。
まとめ
いかがでしたか。
『うずまき』の内容をより深く理解していただくために書いた記事ですが、本当に理屈抜きで面白い作品となっていますので、ぜひコミックを読んでほしいです。
徐々にエスカレートしていって、もう気づいたら手が止まらなくなりますよ。
書籍情報
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アニメ予告編
2024年12月20日からNetflixにて配信が予定されている、アニメ版の予告編を紹介しておきます。
これから他にも伊藤潤二の作品をレビューしていきたいと思いますので、気が向いたら足を運んでやってください。
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▶伊藤潤二の『富江』はどんな作品?
それでは、また。
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