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鳩です。パイヨミです。
映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』。
長いタイトルですけれど、日本ってサブタイトルつけるの好きですよね。
シンプルに『MONDAYS』の方が潔かった気もする。
さて、今回は異色のタイムループ作品。私が特に好きな分野なので大変面白く観させていただきましたが、これは本当に新感覚と言わざるを得ない映画でした。
単なるB級のコメディ映画なのかなと、不安な気持ちもありつつ見始めた今作。とんでもなくセンスが良くて驚かされました。
あらすじや概要に加え、良かったポイントをいくつかご紹介していきます。
それでは、どうぞ。
『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』とは
映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』は2022年に製作された日本映画です。
監督は2021年にロングランヒットを記録した『14歳の栞』の竹林亮、脚本は彼と同じくCHOCOLATE Inc.に所属する夏生さえりが担当しています。
社内で意見を求め、10数名におよぶ共同脚本ということらしいですが、練り上げるまでには相当の苦労があったようです。
広告代理店に務める社員たちが激務に悩まされる1週間を何度も繰り返し、そこから抜け出そうと悪戦苦闘するお話。
もう少し安っぽい感じの作品になるかと思いましたが、細部にまでこだわった作り込みのせいか、かなりリアリティが感じられました。
あらすじ
月曜日の朝。新商品のプレゼンの準備に追われていた吉川朱海は突然後輩の2人から「同じ1週間を繰り返している」と告げられる。このループを抜け出すためには部長に気づいてもらう必要があると推測した彼らは、他の社員たちの協力を得て部長にこの事実を伝えますが、当の本人からは一向に信じてもらえない。
終わらない1週間を幾度となく繰り返す彼らは、脱出のためにあらゆる手段を講じていく……。
巧妙なシナリオ
会社組織らしい攻略法
会社員のループにおよそ相応しい、1週間という単位設定。
今作は攻略手段にも社会人らしさが存分に発揮され、日本人にとっては共感を得やすい内容であると思います。
後輩たちのアイデアで直近の上司から順に上の階級へとループ現象を信じ込ませる上申制度を取り入れ、部長を説得する際には入念に準備したプレゼンテーションを行う。
社会人としては容易に思いつきそうなものですが、ループ体験者が行う内容としてはかなり斬新な発想です。
元々は30分の短編映画にする予定だったそうですが、議論を重ねるうちに内容が120分くらいのボリュームに膨らんだ後、80分程度の尺に何とか削ぎ落としたようです。
だからこそ、テンポ良く進むわりに内容が濃いんですね。
1週間がループしてリセットされた際に記憶を呼び覚すためのトリガーも、かなりキャッチーです。
月曜日の朝、窓に鳩が衝突する音が実はトリガーなんですが、それを擬似的に真似た机を叩く音で説得相手の意識を変えるんです。監督こだわりの鳩ポーズも相まって、作品の見栄えがぐんと上がるような気がしました。
まるで舞台のような演出
今作はオフィス内部の狭い空間でほとんどの遣り取りを行う。
時おり屋上に出てこっそり話し合うことはありますが、基本的にはタイムループに関しての話を他の社員がいる目の前でも繰り広げています。
何だか怪しい素振りをしていたり、オフィスで歌っちゃったりしていて、「こんなに堂々として大丈夫なの?」と思ってしまいますが、周囲は無反応で行動を起こしている彼らだけがクローズアップされているような印象を受けます。
周りで働く彼らはその場にいるものの、あたかも照明を落としているような扱いで、そこが舞台のような演出に感じられました。
これによって他の者に聞かれてはならないという緊張感は薄れるものの、舞台を集約させることでテンポが良くなるのでエンタメとしての楽しみが増し、臨場感もありました。
上司が気づいても終わらない
サブタイトルにも書かれている、”上司に気づかせないと終わらない”というのは一種のミスリードなのかもしれません。
中盤で彼らは部長にタイムループを気づかせることに見事成功し、原因と思しきものを解決するに至りますが、そう上手くはいかないのは、もはやお約束ですね。
後半の展開は、真エンドへと向かう道。
これから観てみようという方は、これからの展開は知らない方が楽しめると思いますので、ネタバレにご注意ください。
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キーマンは事務の神田川聖子でした。
これまでのタイムループでは全く関わりを見せることがなく、蚊帳の外に置かれていた彼女ですが、実は誰よりも早くループ現象に気づいていたのはこの人だったんです。
冒頭で吉川にタイムループを説明した後輩の2人、遠藤拓人と村田賢はすでにタイムループに気づいている状態でした。
「どっちが先に気づいたのかなぁ」とぼんやり思いつつ見ていましたが、2人はこの現象について同時に気づいた。
なぜならそれを気づかせたのは神田川であり、偶然にも鳩の合図を彼らに伝授したのも彼女だった、という伏線回収は見事でした。
周りの人間が徐々に現象に気づき始め、神田川もそれは承知していたものの、彼らの思い描く脱出へのプランに疑問を持った彼女は、密かに別の可能性について行動を起こしていました。
彼女が着目したのは、部長が作った漫画でした。
過去に部長はとある漫画賞に受賞した経歴があり、再び出版社に新作を持ち込もうと製作していましたが、途中で断念せざるを得ない状況に陥り、描きかけの原稿がデスクの引き出しに長い間放置されていました。
部長が自身でこの漫画を仕上げ、未練を断ち切ることでループから抜け出せるのではないかと推測した神田川は、他の者達の脱出プランが失敗したところでそれをみんなに知らせ、今度は全員で漫画の製作に着手します。
漫画って……。聞いただけでは、突拍子もない発想ですよね。
「やっぱりコメディか」と思うかもしれませんが、これが上手い具合に作られているんです。
後半の展開は意外にも、涙腺を刺激するものとなっていきますよ。
これについては、【主人公はやはり吉川だった】にてご説明したいと思います。
キャラクターの役割が絶妙
ループに飽きが来ない
毎度主人公たちが違う行動を取っていくので、ループを繰り返しても展開に少しずつ変化が見られ、マンネリ化していくようなことはありませんでした。
着実に前に進み、徐々に結果が好転しているような気分にさせられます。
特に吉川はキャリアアップの転職を控えている立場からループを利用して仕事の効率化を図り、クオリティや評価を上げようと目論んでいたため、クライアントからの反応が徐々に良くなっていくのは見ていて楽しくもありました。
また、上申制度のおかげで一人ずつループに気づくという展開になっていて、それぞれの個性や考え方が短い尺の中でも効果的に描写されています。
それによって見ている側は整理がしやすく、また感情移入もしやすい。
吉川にとっての直近の上司である森山宗太郎は、アイドルグループ「lyrical school」のファンということもあり、彼を攻略するために吉川が同じくファンであることを装いながら乗り気にさせる場面は、おしゃれかつ軽快な演出でした。
部長に気づかせるという発想
タイムループものにおいて、原因を突き止めて解決するというのは必ず行われる流れです。
本編中でその手の話に詳しい村田も触れていましたが、本来は主人公的なポジションに当たる人物の悩みを解決するなどしてループを抜け出すのが一般的かと思われます。
しかしながら今作は、部長に焦点を置いている。そこに意外性があって面白かった。
部長がいわゆるラスボスでありながら、救うべきヒロインの扱いも兼ねている設定は今思い返しても何だか滑稽で、可笑しくなってしまう。
部長の永久茂を演じたマキタスポーツさんがとても愛らしい演技を披露してくれているので、どこか憎めないおじさんというところが見ていて楽しめました。
さらに終盤には彼の優しさや懐の大きさも垣間見れ、思いもよらぬほどの愛着を持ってしまいます。
主人公はやはり吉川だった
さて。後半の展開ですが、転職を間近に控えた吉川はループを抜け出すことと同時に、仕事のクオリティも確実に上げておきたいと考えています。
途中まではそれが可能な状況でしたが、部長の漫画を仕上げることを一番に考え始めた他の社員は、仕事そっちのけですべての時間を漫画製作に使い始めます。
吉川も表向きは参加するものの、仕事の遅れを許すことができず、漫画は手つかずで目の前の仕事にばかり注力してしまいます。
まぁ、社会人としては間違ってないんですけど。
皆で協力し合うことが最も重要であることを失念した彼女は、自分のことばかりを考えて他の社員にも強く当たってしまい、一時憂鬱な展開へ。
そんな彼女は様々な経験によって、自身の考えが間違っていたことを悟ります。
一皮むけた吉川が再度みんなと共に一致団結する姿を描いたパートはとてもドラマチックで、その本質は部長が過去に途中まで描いた漫画ともリンクしている。
一見して突拍子もないと思われた漫画製作は、現状の彼らを取り巻く環境を俯瞰で眺めるための装置として準備されていた。
それによってドラマ性がさらに高まり、駆け抜けるように終わった最後は清々しさと共に、感極まるものが込み上げてくるんです。
今作は物語の起承転結という点において、非常に優秀な脚本だったと思います。
ラストシーンの意味は?
遠藤から送られてきたメール
エンドロール後、社内にタイムループを経験した面々が揃っている中で遠藤の姿だけが見られない。
吉川はパソコンの画面を見つめながら、何やらスペインのロンダという街から送られてきたメール(写真?)を眺めている。
彼女の背後に立った村田はそれを見ながら、「はじめの頃、さっさと運命の人探しに行っちゃったんです。むちゃくちゃ探して見つけたみたいで」というような言葉を発した。
一同がそれを聞いて笑う中で吉川の携帯電話が鳴り、画面を見つめている姿で幕が閉じる。
これについての考察というか、私なりに調べた結果を述べていきたいと思います。
一部では異なる世界線のお話だとか、次の周回が始まって今度は遠藤の心残りを払拭しなければ再びループが起きるのでは?というような考察が見られましたが、私の出した結論はわりとシンプルです。
遠藤はタイムループの際に見つけていた運命の相手に会いに行った。
たぶん、それだけです。
スペインからメールを送ってきたのは恐らく遠藤で間違いないとして、彼はタイムループを認識した初めの頃に長期の旅行に出ているんですよ。
吉川に屋上でタイムループの原因について語っていた際、後輩の2人は当初遊び呆けていたと彼女に話しました。けれど何がきっかけでループから抜け出すとも限らず、最終的には普段通りの生活を過ごすことで後々のトラブルを避けようという結論に至った。
ループ当初、恋人探しに勤しんでいた彼は、バックパッカーでスペインのロンダという街を訪れた。その時に運命の人と出会ってしまい、その人と過ごす未来をモチベーションにタイムループを抜け出すための攻略法を探ってきました。
「仕事よりも大切なことがある」と彼は語っていましたし、プレゼンを経てループ現象について部長に気づいてもらえた際には「やっと会える!」と叫んでいました。
これはループを抜け出した際にロンダで出会った人に正式に会いに行けるという希望の叫びであり、念願叶って会えたのかもしれません。
実はこれに関しては、脚本家の夏生さんが”週刊MONDAYS”にて発信していたので、確かな情報かと思います。
私も本編を見終えた際には同じような印象を受けましたし、夏生さんの記事を読んで確信に至ったので、ここでは噛み砕いてご説明させていただきました。
神田川さんラスボス案も出ていた。
余談ですが、週刊MONDAYSにはこんなストーリー案も掲載されていました。
主人公の吉川にとって本当の敵は部長ではなく、神田川聖子。
彼女の屈折した感情や、長年の部長との間にある因果により、このような事態を招いた。
神田川がまさかの悪役として描かれるシナリオも、アイデアの一つとして浮かび上がっていたんですね。刺激的な展開ですが、ちょっとアニメっぽくなるかな。
平和主義の私としては、内部で争いが起きるような展開は期待していなかったので、一致団結する流れになって本当に良かったです。
まとめ
いかがでしたか。
主題歌や挿入歌を担当した「lyrical school」の楽曲が、閉塞的な空間の中でありながら都会感を感じさせ、緩くて可愛らしい作品として仕上げてくれたように思います。
監督は元々「lyrical school」のファンだったようで、いつか主題歌に使いたいという野望があったようです。
夢が叶って良かったですが、”作品に合わせて見つけてきた”という方が、さらにセンスを感じられたんですけどね。
予告編
予告編を紹介しておきます。
配信情報
映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』は上記以外にも複数のサブスクで配信されているようなので、興味のある方はそちらも合わせてご覧ください。
それでは、また。
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