レスリー・チャン『さらば、わが愛/覇王別姫』の内容は?儚くも美しい映画です。

映画『さらば、わが愛/覇王別姫』のアイキャッチ画像 映画
(C)1993 Tomson Films Co.,Ltd.(Hong Kong)

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男として生まれ……。

パイヨミです。

レトロシリーズ第4弾!
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日テレドラマ

史実に沿って進む物語

『さらば、わが愛/覇王別姫』は1993年に制作された中国・香港・台湾による合作映画です。

日中戦争や日本軍の支配期、国民党政府時代、そして文化大革命を背景に、1924年から1970年代までおよそ50年もの近代中国を生きた二人の京劇役者の半生を描いた物語となります。

1993年の第46回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞。

2023年には映画の公開30周年、レスリー・チャン没後20年の節目ということで4K版が公開されました。

あらすじ
遊女の母に捨てられ、京劇の養成所に入った小豆(シートウ)は淫売の子としていじめを受けたが、それを庇って弟のように扱ってくれたのが石頭(シャオトウ)だった。
辛い修行に耐え、成長した二人は京劇俳優として一躍スターとなり、程蝶衣(チョン・ティエイー)、段小楼(トァン・シャオロウ)とそれぞれに名前を変えて人気の演目「覇王別姫」を演じていた。
激動の時代に負けじと女形を演じ、小楼への愛を貫こうとする蝶衣でしたが、娼婦の菊仙(チューシェン)と小楼の結婚をきっかけに二人の絆は歪み、やがて彼らは苛酷な運命に翻弄されていく……。

蝶衣役のレスリー・チャンは女形として「覇王別姫」の虞美人を演じていますが、舞台上だけに留まらず、劇中のすべてにおいて所作や表情の作り方が艶かしく美しい役者さんでした。

政治権力の変化、文化大革命という歴史の流れとはいえ、自身の磨いてきた一芸の境地が古びた価値観として扱われ、後に反逆とまで罵られることになろうとは……。

見事な配役

今作で最も注目すべき俳優は、蝶衣役のレスリー・チャンで間違いないのかもしれない。

ですがあえて言わせてもらうと、素晴らしいキャラクター性を披露したのは袁世卿である。

京劇を愛好する没落貴族で、同性愛者。

この方が非常にユニークなキャラをしていました。

袁世凱の次子、袁克文をモデルにしたとも言われていますが、実在はしていません。

気持ち悪いが、どこかチャーミング。べろべろに酔っ払いながら蝶衣と京劇ごっこに興じる姿は風情すら感じられました。

テーマの重たい世界観で、唯一ギャグ要素を含めた人物であったように思います。

それゆえに、文化大革命でこの人が裁判もなく死刑を宣告されるシーンは、本当に恐ろしく感じられました。

冗談でも空想でもなく、紛れもない事実として、目の前の現実を突きつけられている小楼・菊仙の怖れにひどく没入してしまいました。

切ない愛憎劇

蝶衣、小楼、そして菊仙。

三者の愛憎劇は見ていて本当に辛かった。

幼少期から苦楽を共にし、虞美人を深く演じてきたことから小楼に対して恋心にも近い感情を抱く蝶衣。

それは同性愛というよりも依存心、恋というより家族に近い感覚であったように思えます。

そんな関係を舞台の上だけに留めておきたい小楼が菊仙と夫婦になることで、魔の三角関係は出来上がってしまいました。

蝶衣と菊仙の関係は、何やら複雑でしたね。

恋敵である二人は憎しみ合っていましたが、時に最大の理解者であったようにも思います。

阿片断ちに苦しむ蝶衣を介抱する菊仙。「寒い、寒い」と震えながら呟く蝶衣を抱きしめる姿は、さながら母親のような振る舞いに見えました。

母親に捨てられた蝶衣と、子供を流産した菊仙という背景事情があるからこそ起こりうる、温かで胸が苦しくなる場面でした。

遊女の母を持つ蝶衣と、元遊女の菊仙という事情もまた、二人の関係に影響を与えてましたね。

蝶衣は大事な人を取られたばかりか、それがよりにもよって遊女とは……。

母親と重なって見えるばかりか、芸を続けるためにパトロンを持つ蝶衣は、彼女を責めることで自身にもそのダメージが返ってくる。

同族嫌悪という言葉がピッタリでした。

文化大革命によって強制された自己批判のシーンは、本当に残酷でした。
扇動された民衆の集団リンチは、想像を絶しますね……。

この時代に生まれなくて良かったと、心底思う自分がいました。

「ていうか、小楼のやつなんなの」と内心で思ったのは私だけですかね?

粛清はあまりに凄まじかった。
保身のため仕方がなかったとは思います。

とはいえ、身内を軽んじすぎてない?

蝶衣については日本軍の接待とかアヘン中毒者だったこととか、袁世卿との仲まで話す始末、菊仙に至っては愛してない、離婚するとまで宣言しましたからね。

「あぁ、最後まで決めることのできない男なんだな」と、密かに思いました。

蝶衣を虞美人の役から降ろさせる場面にしても、あれだけ長いこと共演してきた間柄で、蝶衣が虞美人という役に対してどれだけの思い入れがあるのかを知ってたうえで、それ他人任せにする?

その時から私、実はもう怒ってました。

少々荒ぶってしまいましたが、同じように感じた人がいれば幸いです。

筆者、考察に耽る

映画を鑑賞し終え、気づけば夜中の三時でした。

そろそろ寝ないと……。

私は歯を磨き、そそくさとベッドに潜り込みます。

ベッドに入っても、頭の中では作品の残像がぐるぐると駆け巡っていました。

「悲しい話だったな」と、率直な感想を持ったまま眠りにつきかけた私はふと、小楼の顔面がアップになったラストカットを思い出した。

「……小楼のやつ。最後、笑ってた?」

予期せぬ事態に驚愕の表情で幕を落としたものかと思っていたが、最後に笑みを浮かべたとなれば、小楼にはこの結末について予想がついていたのかもしれない。

少なくとも、納得していた。

菊仙の死を目の当たりにした時、蝶衣の魂はすでに損なわれていた。

劇中では語られていないが、京劇を失った彼にとって、その後の生活に生きがいは感じられなかっただろう。

それから11年の月日が経ち、四人組が失脚して再び覇王別姫を演じることを許された彼は、演目の最中に自害することを思い描いた。

人生のすべてを費やしてきた、覇王別姫。いつしか虞美人に取り憑かれた彼は、虞美人として自害することで自身の生きた道に意味を見出し、最後まで誇り高くあろうとした

それはようやく叶えることができた菊仙への答えであり、同時に小楼に対する一つの決別だった。

蝶衣は、さぞ満足そうな顔で逝ったのだろう。そこに小豆の面影を見たからこそ、小楼は最後に微笑んだのかもしれない。

なんて。一人で耽りながら床に就いたのでした。

まとめ

いかがでしたか。

なんやかんやと語りましたが、まずは観てほしい作品という言葉に限ります。

三時間ほどありますが、本当にあっという間でした。実は私も作品時間を見て観るかどうか躊躇しましたが、今では観てよかったと思います。

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これからもレトロな名作を紹介していきたいと思いますので、興味を持った方はレトロシリーズのタグからご覧になってみてください。

それでは、また。

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