映画『死刑にいたる病』のラストを考察。灯里の台詞に原作と違いが?

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©︎櫛木理宇/ハヤカワ文庫 / ©︎2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

※本ページはプロモーションを含みます。

すごいな君は!パイヨミです。

今朝は外に出ると、「う、寒い」と感じました。

とうとう秋の訪れですかね。半袖きつい。

雨が続くと何だか鬱屈とした気持ちになるので、太陽が顔を見せてほしいものです。

さて。”鬱屈”といえば、今回はこんな映画を紹介したいと思います。

――『死刑にいたる病』。

タイトルが気になって思わず見てしまった作品ですが、あの阿部サダヲさんがシリアルキラー役っていうのも興味を持った要因の一つだったかもしれません。

それでは、どうぞ。

『死刑にいたる病』とは

『死刑にいたる病』は小説が原作となっており、著者は『ホーンテッド・キャンパス』により第19回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞してデビューした櫛木理宇です。

元々は2015年に『チェインドッグ』という名で刊行されましたが、2017年に改題して文庫化されたようです。

監督は映画『凶悪』やNetflixの配信ドラマ『火花』などを手掛けた白石和彌で、アウトローな世界観を得意とした方ですね。

主なキャスト
・榛村大和:阿部サダヲ
・筧井雅也:岡田健史(現:水上恒司)
・金山一輝:岩田剛典
・加納灯里:宮﨑優
・筧井和夫:鈴木卓爾
・筧井衿子:中山美穂
・根津かおる:佐藤玲

あらすじ
理想とは程遠い大学に進学し、鬱屈とした日々を過ごす筧井雅也。ある日彼のもとに1通の手紙が届き、それは世間を震撼させた連続殺人事件の犯人からだった。
現在は死刑囚となっている榛村はいむら大和はこれまでに24人もの男女を殺害した稀代の連続殺人鬼だが、雅也が中学生の時には地元でパン屋を営んでおり、その頃に彼もよく店を訪れていた。
榛村の手紙には自身の罪を認める内容が書き綴られていたが、最後の1件だけは冤罪だと訴えている。
真犯人を探し出してほしいと依頼された雅也は独自に事件を調べ始めたが、やがて思わぬ真相へと導かれていく……。

今作において、阿部サダヲさんはある意味ピッタリな配役に思えました。

明るい役柄の印象が強いわりに、目つきが何だか怖いですから……。

主演の岡田健史さんも相当に雰囲気が出ていましたが、岩田剛典さんだけはミスマッチだったかなという印象でした。

演技力というより、根本的にキャラと合っていないような感じです。

ちょっと綺麗すぎたかな。笑

鬱屈とした世界観

榛村大和という怪物

榛村大和は表向きはパン屋を営む優しい人柄の人間でありながら、密かに殺人を繰り返してきた凶悪犯です。

彼には殺しのルールがありました。

狙いは決まって高校生。17歳か18歳で黒髪、制服をきちんと校則通りに着るような真面目な子。

ターゲットの生活パターンを調べたうえで些細なところに接点を持たせ、徐々に関係性を築き上げてから自身が所有する小屋に拉致監禁。

毎度同じ方法で拷問にかけた末、遺体を所有地の庭に埋めます。

対象の爪をコレクションするのが趣味で、被害者が無垢で穢れのない子であることの象徴として扱っているのか。その辺りの詳しい描写は映画版にはありませんでしたが、母親の爪は綺麗だったようです。

いわゆる秩序型のシリアルキラーである榛村は知能が高く、特に注目すべき点は彼のマインドコントロール能力で、相手の心の隙間に入り込むのが恐ろしく上手い

だからこそ被害者は彼に心を許し、まんまと罠にハマってしまうわけです。

榛村が冤罪だと主張する最後の殺人事件、根津かおるの殺害方法はこれまでの彼の手口と大きく異なり、その点を雅也が独自の調べ方で洗いながら真犯人を探っていくのが、主な話となります。

洗脳の恐ろしさ

筧井雅也は父親による厳しい躾により幼い頃から自由を与えられず、学業のみに専念させられてきましたが、それが逆効果となったのか理想の大学に落ちてしまい、二流大学へ進学。

誰からも期待されず、世間に対して恥ずかしい存在として親から扱われる彼は、鬱屈とした日々を過ごしていました。

そんな折に届いた手紙だったからこそ、自然と留置所へ足が向いたのかもしれません。

事件に関わった者たちへ聞き込みを行い、現場に足を運んで得た結果を雅也が報告すると、榛村は大袈裟に驚いたり褒めたりしてくれました。

榛村が冤罪であると盲目的に信じ込んだ雅也は、徐々に事件の調査にのめり込んでいく。

その合間に実家を訪れた彼は、母親が所有する昔の写真を偶然見かけます。

榛村と隣同士で写っているその写真から、彼女が榛村と面識があることを知った雅也は施設の関係者を訪ね、取材を重ねていく。

母親が過去に施設内で妊娠をして追い出された事実を知った雅也は、その相手が榛村であり、自身は彼と血の繋がりがあるのではないかと思い始めます。

榛村が否定しなかったことから連続殺人鬼の息子だと信じ込んだ雅也は、通りすがりの男性を暴行し、殺害寸前まで追い込んでしまいます

殺人犯の遺伝子を待つ自分もまた、殺人犯になる可能性がある。

恐ろしいまでの刷り込みと、人間というものの脆さが露見された展開でした。

ラスト10分でどんでん返し

真犯人は誰?

調査の末に真犯人と思しき金山一輝へたどり着いた雅也でしたが、根津かおるの殺害現場まで後をつけてきた彼は、そこで驚愕の事実を伝えます。

実のところ、根津かおるを殺した犯人は榛村大和自身でした。

過去に洗脳し、トラウマを植えつけた金山の元を訪れた榛村は、彼自身に根津かおるを次のターゲットにするよう選ばせた。

金山はその後悔から、事件現場に足繁く通って弔いをしていただけでした。

思わぬミスで逮捕され、死刑囚となった榛村は、過去に標的の候補の1人だった雅也を弄ぶことで牢の中でも楽しみが絶えないよう仕組んでいたのです。

結局は、榛村が死刑になるまでのお遊びに過ぎなかった。今作はスタートから壮大なミスリードを誘うどんでん返しのお語でしたね。

私が冒頭の辺りで予想した展開は、金山一輝が真犯人で実は彼が榛村の息子。”死刑にいたる病”とは遺伝による殺人衝動か?

という流れが頭を過ぎりましたが、初登場から怪しげな男として現れた金山が犯人というのも展開としてつまらないと思っていたので、どうせ榛村がやったんだろうなぁというのは薄々感じていました。

殺し方がやっぱりエグすぎて、他には真似できそうにない。

タイトルに相応しい終幕

ラストを語る前に加納灯里について少し触れておくと、彼女は雅也が地元にいた頃の同級生です。

当時から根暗だった雅也と同じく、灯里も地味で暗くて周囲とは上手く馴染めない子でした。

そんな彼女と大学で再会した雅也。

灯里は垢抜けた雰囲気の可愛らしい子になっており、陽キャっぽい連中が集うサークルに属していました。

榛村が真犯人であることを知り、いっぺんに冷めてしまった雅也は普通の男の子に戻り、最後には灯里と交際しているような描写が描かれます。

ラストシーン。雅也に手を引かれ、彼の部屋を訪れた灯里。

二人で良いことをしようと手を触れ合った時、雅也はふと彼女の指を眺めながら、「爪、綺麗だね」と囁きました。

すると灯里は彼を見つめながら、「剝がしたくなる?」と答えます。

えっ……。

榛村を連想した雅也が思わず飛び退くと、彼の手が触れた灯里の鞄が地面に落ち、そこから大量の封筒が出てきました。

……見覚えのある筆跡。

雅也と同じく榛村から手紙を受け取っていた灯里は彼に近づきながら、「私、好きな人の一部を持っていたいって気持ち、わかるなぁ」と呟いたところで終幕となります。

何とも気味の悪いエンディングでしょうか。

灯里ちゃんは榛村にどっぷりと洗脳されていたわけです。

『死刑にいたる病』は伝染し、拡大する

第二、第三のシリアルキラーの誕生とは、死刑を目前に控えた榛村も最後にとんでもない種まきをしでかしてくれました。

後で調べたところによると、灯里も当時に榛村から標的にされていた一人であり、そういった人物たちに向けて彼は片っ端から手紙を送っていたようです。

この後、雅也はどうなったのか。

知りたいような、知りたくないような……。まさしくタイトルに相応しい終幕となりました。

原作との違い

私は原作を読んでおらず、映画のみの鑑賞なので細かい違いについては把握していませんが、色々と調べた中でラストシーンの描写が異なることが分かったので、そちらをご説明していきます。

実際に正しいかどうかは分かりませんので、気になった方は原作を読むことをオススメします。

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ラストシーン。

映画版と同じく、加納灯里と交際している雅也。

灯里は笑みを浮かべながら、「ずっと昔からわたし、筧井くんとこうして二人で歩きたかった。小学生の時から、ずっと」と話します。

ここで終わればハッピーエンドですが、やはり原作もそう簡単には幸せにしてくれません。

続けて彼女は、「ある人にアドバイスをもらい、目が覚めた」と言いました。

「待ってるだけじゃ駄目。男の子は時々揺さぶってみるのもいい、女は飴と鞭を使いわけなきゃ」

アドバイスって……。絶対あいつだよね?

実はこの後、榛村の担当弁護士である佐村が留置所で榛村と面会するシーンがあり、控訴手続きのファイルの中にとあるリストが見られました。

二十数人の名が連なった、文通リスト。筧井雅也には二本線が引かれ、すでに始末されたと考えるのが妥当なのでしょうか。それとも、遊びの対象として外されただけなのか。

そこには加納灯里の名前も載っていました。

佐村に頭を下げた榛村は、微笑みながら最後にこう言います。

「いま、あなたの手を握れたらいいのにな」

この台詞は雅也が父親かどうか尋ねた際、榛村が答えた言葉と同じです。

原作と映画版のどちらもエンディングは気味が悪く、イヤミスと言われるだけはありますね。

ちなみに映画版での佐村は洗脳を受けておらず、榛村に対して否定的な人間として描かれていました。

残念なポイント

秩序型とは?

榛村には殺しのルールがあり、毎度同じ方法で処理しましたが、彼が逮捕に至ったのは拷問にかける予定だった子に逃げられたのが原因でした。

いつも通り睡眠薬で眠らせ、小屋に運び入れるまでは良かったものの、すっかり眠っていると思い手足の拘束を怠っていたからだそうです。

私は秩序型という犯罪者のパターンを知り尽くしているわけではなく、あくまでも個人的な感想になりますが……、

ちょっと、迂闊過ぎない?

榛村の最後の殺人、根津かおるの事件に関しても気になる点がありまして、秩序型の人って自分の殺しのスタイルを変えることに抵抗はなかったんでしょうか

そろそろ捕まりそうで刑務所にいても楽しみたいからと言っても、長年かけて20人以上殺した方法を変えてしまうのは、プライドが許さないような気がしました。

あとはターゲットの年齢についてもこだわりが曖昧で、根津かおるは26歳、目をつけた当時の年齢が17歳らしい。

それを言っちゃえば、誰しも17歳の時分はあった気がしてしまいます。

マインドコントロールすげぇ

榛村の得意とするマインドコントロール。

何人もの人々を洗脳し、生き方すら変えてしまうほどでした。

映画版においては金山一輝にトラウマを植え付け、根津かおるには潔癖症を付与。

留置所では短期間に看守を手なづけて面会時間まで操作するに至っています。

雅也も中盤までは洗脳されかけた状態で、危うく殺人犯になるところでした。

ここで一つ疑問に思うのが、「なんで佐村を洗脳しておかなかったかなぁ?」ということです。

その方が絶対に雅也を洗脳するのに役立ったはずなんですよ。

なんせ佐村の弁護士事務所を通じて榛村の事件についての資料を閲覧していた雅也は、佐村からこっぴどく叱られますからね。

榛村が冤罪のはずもなく、実は悪い人ではないと思うのは間違っている。探偵ごっこならよそでやりなさい。というような忠告です。

榛村は雅也を本気で騙す気があったのか。

あらゆる者を操作するほどのカリスマ的存在として登場するわりに、榛村の洗脳はどこか中途半端な印象を受けました

ていうかあんなに簡単に看守を洗脳できるなら、もういっそ留置所から出られそうなんだけど……。

個人的な理想の展開

上記を踏まえ、私なりに解釈を改めた理想の展開をお話したいと思います。

――これまでに20人以上の男女を殺害してきた榛村はすでに生きる価値を見失い、惰性で殺人を行っていた。

このまま死んでも構わないが、最後に面白いことをやりたい。

そこで思いついたのが、種まきである。

冒頭で拷問予定の子に逃げられたのは単なる不注意ではなく、計画の一部。逮捕された彼は死刑囚となり、冤罪を理由に雅也を呼びつける。

この解釈なら根津かおるの殺人が普段と全く違う方法で行われていたことも、壮大な計画の一部として新しいことに挑戦したいという意気込みとして納得がいきそう。

榛村があえて死刑囚となった理由は2つ。

1.生に対しての未練がない。
2.難易度が高いほどスリルがあり、直接手を下さずに計画を遂行する快感を味わうため。

雅也の洗脳にはあと一歩というところで失敗するものの、加納灯里を筆頭にシリアルキラーの種を植えることには成功し、計画を完遂する。

以上です。

初めからすべてが壮大な計画の一部として描かれていた方が、榛村の怪物性を高めるうえに鳥肌が立つエンディングだったかなと思います。

現状でも十分に満足のいく作品でしたし、私は原作も知らない身ですので、単なる一人のアマチュアの意見として流していただければ幸いです。

まとめ

いかがでしたか。

ここまで説明しておいてなんですが、念のため言っておきますと、グロいのが苦手な方はこの作品は絶対に避けておいたほうがいいです。

私はそれを知らずに鑑賞してしまい、冒頭からキュッと胸が締め付けられたので……。

阿部サダヲさんの狂気の瞳もさることながら、主演の岡田健史さんの重たい演技が光る作品として私の中には印象に残りました。

現在は事務所トラブルによって本名の水上恒司で活動しているようですが、いつかアシタカの実写版を演じることができるといいですね。

日テレドラマ

予告編

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映画『死刑にいたる病』は上記以外にも複数のサブスクで配信されているようなので、興味のある方はそちらも合わせてご覧ください。

それでは、また。



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